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編集委員会からのお知らせ:2025年11月号海外文献紹介

Paternal exercise confers endurance capacity to offspring through sperm microRNAs.

Xin Yin, et al.
Cell Metabolism (2025), 37(11): 2167-2184.e8. DOI: 10.1016/j.cmet.2025.09.003.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41056946/

 

 ハンマー投げで活躍した室伏親子のように、一流アスリートの子供が高い運動能力を示すことは多くの事例が知られています。それは遺伝的な要因や環境的な要因によるものが大きいと考えられますが、どうもそれだけではないようです。今回紹介するのは、運動が父親の精子のmiRNAプロファイルを変化させ、子供のミトコンドリア機能、持久力、代謝機能を高めることを報告した論文です。
著者らは、オスのマウスを8週間運動させた群(F0-Et, exercise training)と非運動群(F0-Sed, sedentary)に分け、それぞれコントロールのメスとかけ合わせて産まれたF1個体(F1-Et, F1-Sed)を用いて研究を行いました。まず筆者らは、F1-EtはF1-Sedに比べて持久力や代謝機能が高いことを明らかにしました。また、F1-Etでは、有酸素運動系の筋繊維(Type I、Type IIa)やミトコンドリア量が増えていることを示しました。そして、Western blottingの結果、F1-Etでは、筋肉においてPGC-1αの発現量が増加していることを明らかにしました。さらに、F1-Et個体、F1-Sed個体それぞれに高脂肪食負荷を行い、糖代謝への影響について調べた結果、F1-Et個体では、筋肉へのグルコース取り込み量が多く、糖代謝能力が向上していることがわかりました。
次に筆者らは、筋肉特異的なPGC-1α強制発現マウス(PGC-1αTG)を用いて研究を行いました。このマウスモデルでは、運動させずに運動後の生理変化を模倣できることが知られています。筆者らは、このマウスのヘテロ個体オス(F0-PGC-1αTG/+)を野生型メスとかけ合わせ、TG個体(F1-PGC-1αTG)と野生型個体(F1-PGC-1αWT)を得ました。また、上記と同様にコントロール個体としてF1-Sedを用いました。それらの個体を用いて前述と同様の試験を行った結果、F1-PGC-1αWTでは、F1-PGC-1αTGには及ばないものの、F1-Sedと比較して有意に持久力や代謝機能が高く、ミトコンドリア量やPGC-1αの発現量も増加していることが明らかになりました。
次に著者らは、F0-Sed、F0-Etそれぞれの精子からsmall RNA(sRNA)のみを抽出し(long RNAでは効果がなかった)、人工授精させて得たF1個体(F1-sRNA-Sed, F1-sRNA-Et)を用いて実験を行いました。その結果、これまで得られた結果が再現され、運動した父親の精子由来sRNAが、子供の代謝機能を高めていることを突き止めました。そこで次に、精子由来sRNAの何が作用しているのかを明らかにするため、small RNA-seq解析を行いました。具体的には、F0-Et vs F0-Sed、F0-PGC-1αTG vs F0-Sedで解析を行い、それぞれで共通して変化する27個のmiRNA(発現上昇17個、発現低下10個)を見出しました。そして、最終的に、運動後のヒト精子でも発現が上昇していたmiR-148a-3pを含む4つのmiRNAが重要であることを明らかにしました。さらに、その作用機序として、それらが受精卵においてnuclear receptor corepressor 1(NCoR1)の発現を抑制していることを見出しました。実験的には、合成したmiR-148a-3pを受精卵にインジェクションし、産まれたF1個体において代謝機能等が上昇していることを示しました。さらに、F0-Etの精子から抽出したsRNAとNCoR1を強制発現させたプラスミドを共インジェクションした受精卵から産まれた個体では、その効果がキャンセルされることを証明しました。以上の結果から、父親の運動、もしくはPGC-1αの上昇が精子のmiRNAを変化させ、受精卵のNCoR1を抑制することで子供の代謝機能を上昇させることがわかりました。
しかし、運動で精子のmiRNAが変化する詳細なメカニズムについては不明で、著者らは細胞外小胞輸送による可能性とホルモン制御による可能性の2つを提唱しています。また、本論文で紹介した効果は、F1オスのみで観察され(F2には遺伝しない)、F1メスでは観察されなかったことから、顕著な性差があることもわかりました。性差とそのエピジェネティックな伝達様式には、まだまだ解明されていない複雑なメカニズムが隠れているようです。
いずれにしても、母親の運動が子供の代謝に良い影響を与えることはすでに知られているため、男女問わず自分の未来だけでなく子供の未来のためにも運動は重要ですね。
(文責:多田 敬典)

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