Clinical and MRI Correlates of β-Amyloid Load Inconsistent With Its Presumed Neurotoxicity in Cognitively Healthy Ageing.
Filip Pavel, et al.
J Neurochem (2025), 169(9): e70241. DOI: 10.1111/jnc.70241.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40984796/
アルツハイマー病(AD)の病態仮説において、脳内に沈着するアミロイドβ(Aβ)は、AD発症の初期段階を担う主要な要因として位置づけられてきました。しかしながら、Aβの沈着がみられても認知機能が保たれている高齢者も少なくありません。今回紹介する論文は、そのような認知機能が正常な高齢者を対象に、脳内Aβ蓄積量とMRI定量指標との関連を多角的に解析した研究です。
本研究では、Human Connectome Project–Agingに参加した60歳以上の健常者35名を対象とし、Aβの沈着量18F-Florbetaben PETで評価しました。さらに、拡散強調画像(DWI)、T1w/T2w比、脳血流(arterial spin labeling法)など、複数のMRI指標を組み合わせて解析を行いました。加えて、年齢、認知機能、体格指数(BMI)、握力などの臨床・身体指標との関連についても検討しました。
解析の結果、Aβ沈着量が多い人ほど、神経線維の配列や密度といった微細構造を反映するFA(fractional anisotropy)値および皮質組織の健全性を示すT1/T2比が高く、逆に組織障害を示すMD(mean diffusivity)や自由水分含有率(free-water fraction)は低いことが明らかになりました。また、Aβ沈着量と脳血流(CBF)は正の相関を示し、Aβが多い人ほど血流が高い傾向がみられました。さらに、Aβ沈着の分布はアミロイド前駆体タンパク質(APP)のmRNA発現パターンとは一致せず、他領域からの拡散による可能性も示唆されました。Aβ沈着量と年齢の間には、これまでの報告と同様にわずかな正の相関が認められました。一方で、予想に反して、Aβ沈着量と認知機能や身体指標との間には負の関連はみられず、むしろ正の相関が確認されました。これらの結果から、認知機能が正常に保たれている段階では、Aβが神経毒性を示すとは限らないことが示唆されます。
著者らは、軽度から中等度のAβ蓄積は老化に伴う生理的な適応変化の一部であり、必ずしも病的な現象ではない可能性を指摘しています。本研究は、Aβ蓄積を単純に「神経毒性の指標」とみなす従来の仮説を再考させるものであり、Aβの本質的な役割を再評価することによって、加齢と神経変性の境界を見直す新たな視点を与えるものです。今後、この知見を踏まえた研究の進展に注目したいと思います。
(文責:多田 敬典)
