お知らせINFORMATION

  • TOP
  • お知らせ
  • 編集委員会からのお知らせ:2025年9月号海外文献紹介

編集委員会からのお知らせ:2025年9月号海外文献紹介

Single-cell transcriptomic and genomic changes in the ageing human brain.

Ailsa M Jeffries, et al.
Nature(2025), DOI: 10.1038/s41586-025-09435-8. Online ahead of print.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40903571/

 
 近年、シングルセル解析技術の進歩は著しく、単一細胞のトランスクリプトームのみならず全ゲノムの解析が可能となっています。今回紹介する論文は、ヒトの前頭前皮質を対象に、乳幼児期から百寿者に至るまでの広範なライフスパンに渡り、単一細胞レベルでの遺伝子発現と体細胞変異を包括的に解析した研究です。
 研究チームは、単一核RNAシーケンシング(snRNA-seq)、単一細胞全ゲノムシーケンシング(scWGS)、さらに空間的トランスクリプトーム解析(MERFISH)といった複数の先進技術を組み合わせることで、脳の加齢性変化とそのメカニズムに迫りました。その結果、加齢に伴い、細胞の種類を問わずリボソーム、輸送、代謝など細胞の恒常性維持に不可欠なハウスキーピング遺伝子の発現が低下する一方、神経細胞特異的な遺伝子の発現はライフスパンを通じて安定的に維持されることが明らかになりました。ゲノム解析では、加齢に伴い蓄積する2種類の体細胞変異シグネチャー(A1, A2)が特定されました。 
 シグネチャーA1は加齢と強い相関を示し、遺伝子発現が活発な領域に関連していました。一方、シグネチャーA2は発達期に高頻度に発生するものの生涯を通じて蓄積し続け、転写が抑制される領域に関連することが示されました。興味深いことに、他の多くの組織で観察される傾向とは対照的に、神経細胞では「短く高発現なハウスキーピング遺伝子」の発現が選択的に低下し、「長い神経細胞特異的遺伝子」の発現は維持されていました。
 これらの結果は、転写が活発な短いハウスキーピング遺伝子に体細胞変異が高頻度で蓄積し、そのことが発現低下に寄与する可能性を示唆しています。本研究の成果は、健常脳の老化における分子基盤の理解に繋がることが期待されます。
(文責:藤田 泰典)

PDF

バックナンバー