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編集委員会からのお知らせ:2025年8月号海外文献紹介

Chemical reprogramming ameliorates cellular hallmarks of aging and extends lifespan.

Lucas Schoenfeldt, et al.
EMBO Mol Med 17(8): 2071-2094 (2025), DOI: 10.1038/s44321-025-00265-9.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40588563/

 これまで、老化に伴う細胞の分子的・機能的特徴 (主にエピゲノム) をリプログラミングして若齢の状態に戻すことで、寿命が延伸させる研究が多数報告されてきました。それらの先駆的な研究の多くは遺伝子操作に依存した方法で細胞のリプログラミングが行われていますが、腫瘍形成リスクや細胞機能喪失などの安全性上の懸念があり、臨床応用までの道は険しくなっております。
 本論文では、これらの安全性上の懸念を軽減しながら老化で変化した細胞状態をリプログラミングする新たな手法として、CHIR99021、DZNep、Forskolin、TTNPB、バルプロ酸 (VPA)、Repsox、トラニルシプロミン (TCP)という7種類の化学物質を含むカクテル(7c)で処理する方法を提言しています。7cでリプログラミング処理すると科学的に誘導された多機能性幹細胞が得られることは有名ですが、7c処理で老化の表現型が改善するかについては報告がなかったのです。
 著者らはヒトの皮膚由来の初代培養線維芽細胞を7cで6日間処理し (以前に報告されている完全なリプログラミング条件ではなく、部分的なリプログラミング条件)、老化の特徴が改善されているかを調べました。興味深いことに、化学誘発性部分リプログラミングによりDNA損傷マーカーγH2AXが有意に低下し、DNA損傷応答が改善されていることがわかりました。加えて、7c処理細胞では構成的ヘテロクロマチンの指標であるH3K9me3と、p16遺伝子座における通性ヘテロクロマチンの指標であるH3K27me3が有意に増加していました。老化細胞ではこれらのヘテロクロマチンが減少することが知られていることから、上記の結果は老化細胞特異的なクロマチン表現型が一部改善されたことを示唆しています。また、ヒト線維芽細胞を28日間継代培養した実験においても、p21、p53、Gadd45bなどの老化関連ストレス応答遺伝子の発現量が7c処理で有意に減少していました。
 バルクの老化線維芽細胞を用いたRNA-seqの主成分分析 (PCA) では、対照群と比較して7c処理群が別のクラスターを形成していることが示されました。また、遺伝子オントロジー (GO) 濃縮解析では、対照群と比較して7c処理群で発生プロセスがアップレギュレートされ、有糸分裂と細胞増殖プログラムがダウンレギュレートされていることが明らかになりました。RNA-seqの結果と一致して、7c処理群では細胞密度が低下しており、増殖関連マーカーKi67の大幅な減少が観察されました。
 著者らはさらなる詳細な実験を行い、7cによる化学的誘発部分的リプログラミングでは、DNA損傷、エピジェネティックな調節不全、老化マーカーなどは改善する一方で、低濃度処理でも増殖阻害やROS、IL-6などのアップレギュレーションも誘導してしまうという問題点を明らかにしました。
 よって著者らは上記の問題を解決するために、7つの化合物のそれぞれの化学的効果を考慮し、TCPとRepsoxの2種類の化学物質だけのカクテル (2c) 処理でリプログラミングが最適化されるのではないかと考えました。想定通りに、7c処理と同様に2c処理でもDNA損傷とヘテロクロマチンの加齢変化を改善できることがわかりました。さらに、2c処理したヒト線維芽細胞の継代培養実験では、老化関連遺伝子p21、p53が有意に減少しました。2c処理と7c処理との大きな差異は、7c処理の結果と比較して、2c処理では細胞増殖阻害が緩和され、ROSやIL-6発現も抑えられたことです。すなわち、2cがin vitroでの最適化されたカクテルと判断されました。このような線維芽細胞と同様の若返り効果がヒトケラチノサイトでも認められました。加えて、2c処理で創傷治癒率の初期増加も観察されました。
 著者らは最後に線虫に2c処理をし、寿命へ与える影響を調べました。驚くべきことに、対照群と比較して、50μMの2c処理群では寿命が42.1%も延びたのです (50μMが最適濃度)。50μMのRepsox単独、TCP単独でも31.6%の寿命延長が認められました。2c処理では寿命だけでなく、平均移動速度、最大速度、遊泳速度なども改善されました。
 私としては、線虫の寿命が42.1%も延長されることに驚きました。今後、この論文報告のように、小分子の化学物質による細胞リプログラミングが流行し、in vivoでの若返り実験で使用されていくのでしょうか。老化細胞を生体内から除去するセノリティック試薬の探索も進んでいるところですが、細胞老化も含めた老化の変化全体を抑制・緩和する化学物質の探索や使用実験が再燃することは間違いなさそうです。
 ご興味がありましたらどうか御一読ください。 (文責:橋本理尋)

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