Is taurine an aging biomarker?
Maria Emilia Fernandez, et al.
Science 388 (6751) eadl2116. (2025), DOI: 10.1126/science.adl2116.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40472098/
2年前(2023年6月号)の海外文献紹介では、タウリンがマウス、アカゲザルの健康寿命を延ばし、マウス、アカゲザル、およびヒトで血中タウリン濃度が加齢に伴い低下することを示したScience誌の注目論文を紹介しました(Singh et al., Science, 2023)。しかし、実際にタウリンの血中濃度が加齢に伴い本当に低下するのか、また低下が老化を促進する要因なのかについては議論が続いています。今回ご紹介する論文は、この疑問に対して徹底的に検討を加えたものです。
筆者らは、ヒト、アカゲザル、マウスの3種において、長期間にわたる縦断的データを用いて、血中タウリン濃度が年齢と共にどのように変化するかを調査しました。ヒトの調査では、742人参加のボルチモア縦断老化研究(BLSA)をはじめ、地理的に異なる3つのコホートからデータを分析しました。また、アカゲザル(32匹)とマウス(39匹)についても、長期的な血清サンプルの分析を行っています。解析の特徴として、様々な年齢の集団(横断的)で、経時的に複数(縦断的)回収したサンプルの解析を行っていることが挙げられます。その結果、意外にもヒト(特に女性)とアカゲザル、そしてメスマウスでは、加齢と共にタウリン濃度が上昇する傾向が観察されました。一方、男性やオスマウスでは有意な変化は見られませんでした。さらに加齢による変化よりも、個体差の方がタウリン濃度のばらつきに対して大きく寄与することが、定量的にも明らかになりました。タウリン濃度が身体機能(握力や膝関節の筋力)や体重といった健康指標とどのように関連するかについても調べましたが、その関係性は年齢、性別、種によって極めて一貫性に欠けることが示されました。つまり、タウリンの血中濃度低下が老化促進の一般的指標として役立つ可能性は極めて低いことを明確に示しています。
本研究の結果は、2023年Science発表の『加齢と共にタウリン濃度が低下し、その低下が老化を促進する』という見解に明確に反論するものであり、両研究は加齢とタウリン濃度の関係について真っ向から異なる結果を示しています。Science誌での公開バトル、科学の歴史の勝者になるのは果たしてどちらでしょうか。
(文責: 伊藤 孝)