Meningeal lymphatics-microglia axis regulates synaptic physiology.
Kyungdeok Kim, et al.
Cell S0092-8674 (25) 00210-7. (2025), DOI: 10.1016/j.cell.2025.02.022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40120575/
アストロサイトなどの働きにより作り出された脳脊髄液の勾配が脳内の老廃物を除去するというGlymphatic systemの発見は一大センセーションを巻き起こしましたが、Glymphatic systemの働きが低下するとアミロイドβ(アルツハイマー病の主病変蛋白質の1つ)の蓄積が引き起こされるなど、今や脳脊髄液を介した脳内クリアランスの重要性は世界的コンセンサスとなっています。近年、髄膜に「髄膜リンパ管」があることが明らかになりましたが、今回の論文はこの髄膜リンパ管の機能と老化との関係にフォーカスした論文になります。
筆者らは、深頸リンパ節へ流入する髄膜リンパ管を外科的に結紮したマウスをモデルとして、行動学的変化や脳内の神経活動を検索しました。その結果、髄膜リンパ管を結紮したマウスは手術4週後に実施した新奇物体認識試験とY字型水迷路試験で有意な記憶機能の低下が確認されました。また、電気生理学的手法を用いて前頭前野の錐体細胞における興奮性電流(mEPSC)と抑制性シナプス電流(mIPSC)を測定したところ、mEPSCには変化が認められなかった一方、mIPSCの頻度が約20%低下しており、神経細胞の興奮/抑制のバランスが崩れていることが明らかとなりました。
近年、アルツハイマー病をはじめとする老年性神経変性疾患の病態にミクログリアの炎症が関与していることが注目されていますが、本研究では髄膜リンパ管の機能を阻害したマウスではIL-6の過剰発現を伴うミクログリアの活性化が認められ、抑制性シナプスの減少につながる可能性が示唆されました。そこで、CSF1R阻害薬であるPLX5622の投与や遺伝子改変によってマウスの脳内からミクログリアを除去したところ、リンパ管機能障害に伴うシナプス異常や記憶障害が抑制されました。また、IL-6についても同様にノックアウトマウスを用いた検索により、IL-6を介したミクログリアの活性化が抑制性シナプス障害に関与していることが示されています。
一方、24か月齢の老齢マウスでは加齢に伴うリンパ管機能の低下により前頭前野のmIPSCとmEPSCがともに低下していましたが、リンパ管の新生と成長を促進するVEGF-Cを発現するAAVベクターを髄腔内投与して発現させたところ、抑制性シナプスの機能と記憶力が回復するとともに、IL-6の過剰発現も抑制されました。
これらの結果から、老化に伴う髄膜リンパ管の機能障害はミクログリアの異常活性化を介して認知機能低下を引き起こす可能性が示唆されました。現在、アルツハイマー病に対する予防戦略は病変蛋白質を直接ターゲットとして脳内から除去することを目的としていますが、本研究の成果は脳内クリアランスの機能改善をターゲットにした新たな予防戦略の確立につながる可能性が期待できます。
(文責:木村展之)