学会誌


2019年9月
43巻3号


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3.6MB
目次  (pdf 104KB)

第40 回日本基礎老化学会シンポジウム (pdf 982KB)

名誉会員寄稿文
 『老いの遍歴』
 森 望 (pdf 905KB)

特集企画「体温調節と生体恒常性維持」 (pdf 665KB)

総説
 体温調節の脳機構と加齢による変容-特に温度感覚と行動性体温調節の観点から-
 永島 計 (pdf 858KB)

総説
 睡眠と体温調節能の老化変容における視床下部神経回路の役割
 佐藤 亜希子、中村 和弘 (pdf 873KB)

総説 
 キイロショウジョウバエの代謝シグナルを介した飢餓条件での体温調節機構
 梅崎 勇次郎 (pdf 1MB)

総説 
 哺乳類の冬眠〜低代謝と低体温による生存戦略
 山口 良文 (pdf 846KB)

ベストディスカッサー賞受賞者寄稿 
 第42 回日本基礎老化学会大会 学会見聞録
 伊藤 孝 (pdf 747KB)

ベストディスカッサー賞受賞者寄稿 
 第42 回日本基礎老化学会大会に参加して
 津田 玲生 (pdf 731KB)

学生奨励賞受賞者寄稿 
 第42 回大会学生奨励賞を受賞して
 久松 大介 (pdf 805KB)

学生奨励賞受賞者寄稿 
 第42 回大会学生奨励賞を受賞して
 平尾 勇人 (pdf 786KB)

学生奨励賞受賞者寄稿 
 第42 回大会学生奨励賞を受賞して
 王 梓 (pdf 787KB)

大会報告 
 第42 回日本基礎老化学会大会を終えて
 石神 昭人 (pdf 969KB)


体温調節の脳機構と加齢による変容-特に温度感覚と行動性体温調節の観点から-

永島 計
早稲田大学 人間科学学術院 体温・体液研究室

 恒温動物の体温調節は、大きく自律性と行動性に分類される。自律性体温調節については、幅広く研究がなされ多くのことがわかってきている。一方、行動性体温調節については、ほどんどの動物が持つ基本的なシステムでありながら、そのメカニズムは明らかではない部分が多い。行動性体温調節は、主として望ましくない環境からの逃避行動と、望ましい環境への探索行動からなっている。この人におけるメカニズムとして皮膚の温度センサーからの入力による環境の客観的評価(狭義の温度感覚)、コア体温の変化によって影響を受ける環境温度の主観的評価が行われる(温熱的快不快感)と考えられている。特に温熱的快不快感は行動性体温調節の動機の大きな一つであると考えられている。温熱的快不快感に関わる脳部位は、主にニューロイメージングにより探索され、そのうち島が重要な役割を持つと考えられている。他にも扁桃体、眼窩前頭皮質、前帯状回、腹側線条体の関与が予想されている。

キーワード:温度感覚、島皮質、求心路、行動性体温調節、温熱的快不快感

睡眠と体温調節能の老化変容における視床下部神経回路の役割

佐藤 亜希子1、中村 和弘2
1 国立長寿医療研究センター研究所 中枢性老化・睡眠制御研究プロジェクトチーム
2 名古屋大学大学院医学系研究科 統合生理学分野

 ヒトやげっ歯類では、老化に伴い、睡眠や体温調節などの恒常性維持機能に様々な変容が生じる。例えば、老化による睡眠の断片化や質的な低下はよく知られた老化現象である。このような恒常性維持機構の破綻は、生理機能の加齢変化の結果であるだけではなく、老化そのものの原因となる生体内の変容なのかもしれない。近年の研究から、哺乳類の老化・寿命制御には視床下部背内側部(DMH)が重要な役割を果たすことが明らかになっている。DMHの神経細胞は、睡眠や体温の制御にも関与することから、DMHの神経細胞による複合的な生理学的機能・応答制御を神経細胞レベルで明らかにしていくことは、体温や睡眠の制御を介した老化・寿命制御メカニズムの解明に繋がると期待される。

キーワード:Hypothalamus, dorsomedial hypothalamus, body temperature, sleep latency,sleep homeostasis

キイロショウジョウバエの代謝シグナルを介した飢餓条件での体温調節機構

梅崎 勇次郎
シンシナティ小児病院医療センター

 体温は恒常性において重要な因子である。体温を一定の範囲に保つことで、生理反応を安定に行うために必須である。体温調節は、自律性体温調節と行動性体温調節に分けられ、恒温動物の体温は両方を用いた複雑なシステムにより制御されている。変温動物、とくに小型の昆虫は行動性体温調節を主に利用し、外気温を感知して至適な温度を選択する行動(温度選択行動)を駆動し、選択した局所環境の温度を体内に取り込むことで体温を調節する。
 恒温動物の体温に影響する因子として、光条件、ストレス、概日リズム、加齢、栄養条件などの因子が報告されている。変温動物の温度選択行動に関してもいくつかの同様の因子が影響を及ぼすことが近年報告されている。
 本稿では、変温動物であるキイロショウジョウバエの温度選択による体温調節、および最近筆者らが明らかにした飢餓条件での体温調節を中心に、代謝シグナルを介した体温調節機構について紹介する。

キーワード:キイロショウジョウバエ、体温、温度選択行動、インスリンシグナル、TrpA1

哺乳類の冬眠〜低代謝と低体温による生存戦略

山口 良文
北海道大学 低温科学研究所 生物環境部門 冬眠代謝生理発達分野

 哺乳類の冬眠は、食料の枯渇する冬季を、体熱産生を積極的に抑制した低代謝・低体温状態で乗り切る生存戦略である。冬眠の生理分子機構の解明はヒトの医学薬学への応用展開につながるとも期待されるが、未だ多くの点が不明である。冬眠の際の低体温誘導にはアデノシンA1受容体が働くとされる。冬眠する哺乳類は季節性にからだを変化させることで冬眠に備えており、体温セットポイント変化、白色脂肪組織における脂質代謝経路、呼吸中枢の変化等が明らかになりつつある。また、冬眠は生態的寿命の延伸効果を有するとされる。冬眠研究は基礎生物学と医学応用の両面から大きな可能性を秘めた、21世紀の生物学に残されたフロンティアである。

キーワード:冬眠、低体温、白色脂肪、寿命

2019年5月
43巻2号


第42回(2019年)日本基礎老化学会大会号

「健康長寿社会の実現を目指した老化制御研究」

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5.8MB


2019年1月
43巻1号


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3.6MB
目次  (pdf 88KB)  

名誉会員寄稿文
 『老化研究とともに』
 石井 直明 (pdf 687KB)

特集企画「レドックスシグナル」 (pdf 541KB)

総説
 活性イオウ分子によるエネルギー代謝制御
 西村 明、本橋 ほづみ、赤池 孝章 (pdf 912KB)

総説 
 酸化脂質の構造と生体への影響
 加藤 俊治、伊藤 隼哉、竹腰 進、仲川 清隆 (pdf 914KB)

総説 
 脂質酸化依存的新規細胞死フェロトーシスとリポキシトーシス
 今井 浩孝 (pdf 1.6MB)

総説 
 鉄代謝とその制御
 宮沢 正樹 (pdf 760KB)

シンポジウム報告 
 第39 回日本基礎老化学会シンポジウム報告記
 清水 孝彦 (pdf 570KB)


活性イオウ分子によるエネルギー代謝制御

西村 明1、本橋 ほづみ2、赤池 孝章1
1 東北大学 大学院医学系研究科 環境医学分野
2 東北大学 加齢医学研究所 遺伝子発現制御分野

 システインパースルフィド(CysSSH)を代表とする活性イオウ分子は通常のチオール基に複数のイオウ原子が付加したポリスルフィド構造を有している化合物であり、通常のチオール化合物に比較すると多彩なレドックス活性を有している。最近、システイニルtRNA合成酵素(cysteinyl-tRNA synthetase: CARS)が、生体内の主要なCysSSH合成系であることが判明した。また、ミトコンドリア局在型CARS から産生されたCysSSHは、電子受容体およびプロトン供与体としてミトコンドリア膜電位形成に寄与し、新規エネルギー代謝経路「イオウ呼吸」を営み生命活動をコントロールしていることが明らかとなった。本稿では、活性イオウ分子の主要な生合成経路および新規エネルギー代謝経路「イオウ呼吸」に関して我々が得た最新の知見を紹介する。

キーワード:reactive sulfide species, cysteine persulfide, cysteinyl-tRNA synthetase, sulfur respiration, mitochondrial bioenergetics

酸化脂質の構造と生体への影響

加藤 俊治1, 2、伊藤 隼哉1、竹腰 進2、仲川 清隆1
1 東北大学大学院農学研究科・機能分子解析学分野
2 東海大学医学部・基礎医学系・生体防御学分野

 酸化脂質の構造は極めて多岐にわたり、近年の目覚ましい質量分析の発展にともない、生体内の微量かつ複雑な酸化脂質の構造が次々に解明されてきている。酸化脂質の構造は生体内での生成経路(炎症反応や光照射など)に依存しており、構造によって生理機能が大きく異なることがわかってきた。ネガティブなイメージが強かった酸化脂質であるが、興味深いことに生体の恒常性維持に必須な酸化脂質も報告されてきている。また、脂質の酸化は分子の高極性化をもたらし、例えば膜リン脂質の分子動態にも大きく影響を与える。近年のコンピューターやNMRを用いた解析によれば、酸化による分子動態変化も恒常性維持に必須のようである。本総説では、特に酸化脂質の構造に着目し、脂質が酸化されることによって生ずる機能や性質の変化について概説する。

キーワード:Oxidized lipid, Mass spectrometry, Signal mediator, Molecular dynamics老年性筋疾患研究におけるiPS 細胞の利用とその有用性

脂質酸化依存的新規細胞死フェロトーシスとリポキシトーシス

今井 浩孝
北里大学 薬学部 衛生化学

 近年、脂質酸化が起因となる新しい非アポトーシス経路による細胞死フェロトーシスが注目を集めている。フェロトーシス研究は現在、Ras変異がん細胞を特異的に殺す抗がん剤のメカニズムの解析が進んでおり、シスチントランスポーター(xCT)を抑制するタイプ1(エラスチンなど)と酸化リン脂質の一次生成物であるリン脂質ヒドロペルオキシドを直接還元する酵素GPx4(リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ)を直接阻害するか、発現量を変化させるタイプ2(RSL3など)に大きく分けられる。タイプ1は細胞内グルタチオンの低下により、またタイプ2は直接GPx4を阻害することで、リン脂質ヒドロペルオキシドの代謝を抑制し、遊離二価鉄を介した脂質酸化増幅反応によりカスパーゼ非依存的な新規細胞死を誘導する。フェロトーシスは鉄のキレーターDFO(deferoxiamine)、ビタミンE、フェロスタチン−1により抑制されることが特徴であり、カスパーゼの阻害剤では抑制できない。一方、我々はこれまでに、GPx4の様々な組織特異的ノックアウトマウスにおいて、GPx4が正常組織で欠損すると、カスパーゼ非依存的で脂質酸化依存的な細胞死が起きることを見出し、その分子メカニズムや初期に酸化されるリン脂質分子種がフェロトーシスとも異なることを見出してきている(筆者らはリポキシトーシスと呼んでいる)。またミトコンドリアを経由するアポトーシスにおいても、以前我々を含めた複数のグループが、ミトコンドリア内の特異的リン脂質カルジオリピンの酸化がミトコンドリアからのチトクロームCの放出に関与することを報告している。このことは細胞死におけるリン脂質の酸化シグナルが、何処のオルガネラでどのようなリン脂質分子種に対して起きるのかによって、脂質酸化依存的な細胞死は異なる細胞死経路をたどることを示している。本総説では我々の視点からみたフェロトーシスとリポキシトーシスについて中心に紹介したい。

キーワード:GPx4, lipid peroxidation, iron, vitamin E, ferroptosis

鉄代謝とその制御

宮沢 正樹
東海大学 健康学部 健康マネジメント学科

 鉄は酸素の運搬をはじめ、エネルギー産生、DNAの複製など生体や細胞の恒常性維持に必要不可欠なミネラルであり、ヘム鉄や鉄硫黄クラスターを活性中心としたタンパク質の重要な機能性分子である。鉄の欠乏は鉄欠乏性貧血をはじめとする栄養障害の原因となる一方で、過剰な鉄は酸化障害を誘発する活性酸素種の産生要因となり、老化の促進、発がんや腫瘍の悪性化を促すことが懸念されている。そのため、細胞内の鉄濃度は正常な生理機能を維持するために素早くかつ厳密に制御されなければならない。この鉄の代謝に関する研究はここ数年で多くの新たな発見があり、本稿では生体および細胞内の鉄調節機構の概説とマイクロRNAによる新たな鉄代謝制御を中心に紹介する。

キーワード:Iron metabolism, Ferritin, Transferrin receptor 1, Iron regulatory protein, miRNA



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