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編集委員会からのお知らせ:2023年10月号海外文献紹介

Increased hyaluronan by naked mole-rat Has2 improves healthspan in mice.

Zhihui Zhang, et al.
Nature.
621 (7977): 196-205 (2023). DOI: 10.1038/s41586-023-06463-0.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37612507/

 長寿の齧歯類として最も注目されているハダカデバネズミ。加齢に伴い蓄積する老化細胞が、細胞死を起こしてたまりにくくなる仕組みが解明されるなど(Kawamura et al., The EMBO journal, 2023)、老化研究を促進させる発見が近年相次いでいます。今回紹介させていただく論文では、ハダカデバネズミに含まれる豊富なヒアルロン酸を、他の動物種のマウスに発現させることで、老化の抑制や寿命の延伸に成功したことが報告されています。
 これまでAndrei Seluanovと Vera Gorbunovaらの研究グループは、高分子のヒアルロン酸(HMM-HA; high-molecular-mass hyaluronic acid)が、ハダカデバネズミで多く存在することを明らかにしています(Tian et al., Nature, 2013) 。HMM-HAはガン化耐性、老化耐性に寄与し、ハダカデバネズミの長寿に関係しているとされてきましたが、他動物種への効果は明らかにされていませんでした。今回筆者らは、ハダカデバネズミのHMW-HA合成の役割を担うヒアルロン酸合成酵素2遺伝子(nmrHas2; naked mole-rat hyaluronic acid synthase 2 gene)を過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製し、老化や寿命に関する解析を行いました。nmrHas2マウスは、複数の組織でヒアルロン酸レベルが増加しており、ガン発生率の抑制に加え、50%生存期間が4.4%、最大寿命が12.2%延長していることが確認されました。さらにnmrHas2マウスは、生体内での抗老化作用も示唆されており、免疫細胞の活性化、酸化ストレスからの保護、加齢に伴う腸管バリア機能の改善などを介して、複数組織での炎症が抑えられていることが確認されました。また、若いマウスと老齢マウスの小腸トランスクリプトーム解析でも、nmrHas2マウスのトランスクリプトームは若い状態にシフトしていることが明らかとされました。
 このように今回の論文は、これまでハダカデバネズミで得られたHMW-HAに関する知見を活かした、他動物種への応用を試みた研究成果であり、HMW-HAのヒト老化への効果検証など、今後の研究の進展が待たれます。
(文責:多田敬典)

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