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編集委員会からのお知らせ:2022年1月号海外文献紹介

海外文献紹介2022年1月号

The exercise-induced long noncoding RNA CYTOR promotes fast-twitch myogenesis in aging.

Martin Wohlwend, et al.
Sci Transl Med. 13: eabc7367 (2021).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34878822/

 これまでは自らの研究領域であるアルツハイマー病関係の文献ばかりを紹介してきたのですが、今回は身体フレイルの代表格であるサルコペニアに関する論文を選んでみました。老化に伴い進行性に骨格筋量が低下するサルコペニアは高齢者の介護要因として大きな問題となっており、超高齢化社会に突入した我が国においては迅速且つ的確な対策が必要です。
 今回紹介する論文は、運動反応性に変化するヒト骨格筋遺伝子のデータセットから同定されたCYTORというlncRNAに注目した研究成果で、培養細胞はもちろん線虫やマウスなどのモデル動物も駆使した盛りだくさんの論文です。ヒト由来データを用いて基礎研究を行い、その成果をさらにヒトでも検証する理想的な研究ではないかと感じました。
 ストーリーはシンプルかつ明快で、運動反応性に発現変化するCYTORがⅡ型筋線維の分化と維持に働くことで骨格筋量の維持に重要な働きをしているというものです。この部分の証明に培養細胞をはじめ様々なモデルを突っ込んでおり、トップジャーナルに論文を載せたいならこれくらいやらないとダメなんですねと、私のような零細研究者は心が折られそうになりますが、特に興味深かったのは、本来CYTORを持たない線虫にCYTORを発現してやると筋組織の劣化を防ぐことができたことです。生物の進化とは、こうやって新たな因子を手に入れることで脈々と行われてきたのかもしれませんね。
 また、運動によりCYTORが調節されるメカニズムについても、CYTORの発現と相関するSNPがエンハンサー領域としてCYTORのプロモーターに影響することや、クロマチン構造の解析からCYTORの上流にあるTead1との関係を示唆するデータを示しており、運動→遺伝子発現変化→骨格筋量維持の流れがイメージとしてつかみやすくなっていることも大いに評価できるのではないでしょうか。
(文責:木村展之)

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