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編集委員会からのお知らせ:2021年11月号海外文献紹介

Circadian autophagy drives iTRF-mediated longevity.

Matt Ulgherait, et al.
Nature. 598: 353-358 (2021).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34588695/

 時間制限断食(time-restricted feeding: TRF)は、断続的断食(intermittent fasting)のひとつであり、代謝性疾患の予防・改善や寿命延伸に効果的であることがモデル生物を用いた研究から明らかにされています。近年、TRFの作用に概日リズムが関わることが示唆されていましたが、その分子メカニズムは不明でした。今回紹介する論文では、夜間の断食によって誘導されるオートファジーがTRFによる寿命延伸に必要かつ十分であることを報告しています。
 著者らは、まず寿命延伸に最も効果のある断食タイミングを決めるため、ショウジョウバエを異なるタイミングで断食させ寿命への影響を調べました。そして、1日おきに夜間をまたぐ20時間断食することが、(少なくともショウジョウバエでは)最大寿命および健康寿命の延伸にベストだと結論づけ、この方法をintermittent TRF(iTRF)と名付けています 。ただし、老化した個体でiTRFを実践しても寿命延伸効果は得られないようです。また、食餌制限(dietary restriction: DR)やインスリンシグナルの抑制によってiTRFの効果が増強されることから、iTRFの寿命延伸作用はDRやインスリンシグナルを介した経路とは異なることが示唆されました。
 次に著者らは、時計遺伝子の変異体ではiTRFの効果がキャンセルされることを見出しました。そして、興味深いことに、iTRFの断食タイミングは夜間をまたぐことが必要で、昼間をまたぐ断食(夜間にエサを食べれる状態)では効果が得られないことがわかりました。次に、オートファジー因子であるAtg1(ULK1)とAtg8a(LC3)の日内変動が夜間にピークがあることに注目し、iTRFによってその発現が増幅されること、その増幅が時計遺伝子に依存していることを見出しました。
 最後に著者らは、夜間におけるオートファジーの活性化がiTRFの効果に与える影響について、遺伝学的に解析しました。その結果、夜間特異的にAtg1またはAtg8aをRNAiによりノックダウンすると、iTRFの効果が得られないことがわかりました。一方、夜間特異的にAtg1またはAtg8aを強制発現した個体では、iTRFを行っていない自由摂食群(24時間食餌可能)において、iTRFと同等の寿命延伸効果が観察されました。また、iTRFを行ったグループでは、夜間におけるオートファジー因子の強制発現で、さらなる寿命延伸効果は観察されませんでした。以上のことから、iTRFでは時計遺伝子を介して夜間にオートファジーが活性化し、寿命を延伸させるとまとめています。
 先月、多田先生がご紹介された論文でも食事頻度の重要性について述べられていましたが、本論文でも同様で、さらに(やはりと言うべきか、、、)そのメカニズムとしてオートファジーが関与しているようです。本論文では、iTRFを実施した個体群は、自由摂食群よりも二日間合計(断食日+回復日)での摂食量が多かったとしています。また、夜間にオートファジーを活性化させることで、自由摂食群でも寿命が延びています。したがって、最大寿命および健康寿命の延伸には、摂取カロリーの制限は必ずしも必要ではないようです。オートファジーが何を標的にしているのか、どこの組織が重要なのかなど、まだまだ不明な部分が多い研究ではありますが、今後マウスモデルなどでの研究展開が期待されます。好きなものを好きなだけ食べて、寝ているだけで抗老化できる夢の薬が開発される日が訪れるのでしょうか。
(文責:赤木一考)

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