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編集委員会からのお知らせ:2026年09月号海外文献紹介

Epigenetic and 3D genome reprogramming during the aging of the human hippocampus.

Nathan R. Zemke, et al.
Science (2026), 393(6809); eadt8307. DOI: 10.1126/science.adt8307.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42490474/

 少し前に個体の老化が分子レベルで40代と60代の初期に劇的に変化するという報告があり、一般に聞く身体の不調や疲れの症状などの出やすい時期とやはり一致しているのだなと大きく納得したことがありました。今回ご紹介する論文も、脳の老化が徐々に進むという概念ではなく、50歳から75歳の間に脳のゲノムの再編成が劇的に生じるという内容で、老化研究のプロセスを考える1つのきっかけになる報告かもしれません。
 ヒトの脳において加齢に伴う遺伝子発現の変化が調べられていますが、その根底にある調節メカニズムに関する理解は依然として限定的です。この複雑さを解明するため、成人の生涯にわたるヒト海馬組織について、単一核レベルの遺伝子発現、クロマチンアクセシビリティ、DNAメチル化、および3次元(3D)クロマチン構造の多層的変化を統合的に解析しました。
 解析の結果、加齢に伴い遺伝子発現やエピジェネティックな活性が直線的に変化するだけではなく、非線形の動的な遺伝子調節プログラムが存在することが示されました。特に、50歳前後で遺伝子発現とクロマチンアクセシビリティに大きな転換点があることが明らかとなりました。
 加齢と相関する遺伝子は細胞腫特異的であり、海馬では、神経炎症に関与する遺伝子が顕著に増加しました。内皮細胞では、血液脳関門の維持に重要な遺伝子群の発現が低下しており、これが加齢に伴う血液脳関門の透過性の亢進に寄与する可能性があります。また、これらの変化にはわずかですが性差が存在する可能性も示唆されました。
 エピゲノムの観点では、加齢に伴いアクセシビリティが上昇したcandidate cis-regulatory elements に、ミクログリアの炎症誘発性応答を媒介する転写因子の結合モチーフが多く含まれていました。さらに、50~75歳の間に、胚の卵黄嚢由来ミクログリアが減少し、末梢血単球由来のミクログリア様細胞へと置換されることが確認されました。単球由来と考えられる他のグリア細胞でも、加齢に伴う3Dゲノム、エピゲノム、トランスクリプトームの協調的変化が認められました。
 細胞構成の変化として、海馬のアストロサイトは加齢とともに大幅に減少しており、オリゴデンドロサイト前駆細胞や内皮細胞でも同様の減少が観察されました。特にアストロサイトと内皮細胞はいずれも血液脳関門にとって極めて重要であり、これらの細胞の喪失は、加齢性血液脳関門の機能障害の一因となる可能性があります。
 本研究は、加齢したヒト脳では浸潤単球がミクログリア集団の主要な供給源となり得ることを示し、従来の「卵黄嚢由来ミクログリアが生涯維持する」というモデルに疑問を投げかけています。血液由来細胞が脳に侵入しミクログリア様表現型を示す可能性は先行研究でも示唆されていますが、後天的な遺伝子変異であるCHIP変異がその侵入や増殖を促進するかは明確にはできず、加齢に伴う単球様ミクログリアの増加を引き起こす機序の解明にはさらなる研究が必要です。ミクログリア総数が加齢で大きく変化しないことから、著者らは胚性ミクログリアの自己再生能が非線形に低下し、単球が入り込む“開放ニッチ”が形成されると推測しています。また、加齢した海馬ではアストロサイトが著しく減少し、ATP合成関連遺伝子の発現低下が認められました。ATP枯渇は壊死や免疫細胞による貪食を誘発し得るため、これがアストロサイト死の一因となる可能性があると考えています。
 老化研究では、老化がどの時点で進行し、どの細胞で顕著に現れるのかという課題が常に存在します。近年は連続的な老化ではなく段階的な老化が報告されつつありますが、ヒトのように環境要因を含む個体差が大きい生物では継続的な解析は不可欠に思います。脳の炎症を抑える介入法が、老化研究を行う研究者自身が老化に追いつかれないためにも早期に確立されればなと考えてしまいます。
(文責:板倉陽子)

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