Establishing the relationship between brain cellular senescence and brain structure.
Anina N Lund, et al.
Cell (2026), 189(2); 511-527.e17. DOI: 10.1016/j.cell.2025.10.014.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41576919/
今回ご紹介する論文は、細胞老化と脳の老化(より正確には脳の萎縮)との関係を検索した研究の成果になります。脳神経系における細胞老化研究はアストログリアやミクログリアなどのグリア細胞が中心となっており、最終的な結論は多くの場合、これらグリア細胞が引き起こす炎症やSASPのせいで認知症などの老年性新家変性疾患が引き起こされるという結語になることが多いと感じています。今回筆者らは、よりフラットな視点で脳の萎縮と相関する遺伝子や蛋白質の変動を検索しました。
脳神経外科手術を受けた患者から提供された脳組織(前頭前野)を材料に、bulk / single-nucleus RNA-seqや質量分析などを用いて細胞老化に関連する各種遺伝子と蛋白質の網羅的解析を行い、手術前の脳画像データ(MRI)と照合して脳の萎縮と相関する分子の変動を検索しました。その結果、脳の構造的変化(萎縮のみならず容積増加も含む)に伴う細胞老化関連遺伝子の変動はすべての細胞で均一に生じているのではなく、興奮性ニューロンとミクログリアにおいて強く相関するということが判明しました。興味深いことに、ミクログリアにおける細胞老化関連分子の上昇は脳容積の増加や維持と関連する一方で、興奮性ニューロンにおける細胞老化関連分子の上昇は脳容積の明らかな縮小=萎縮と強力に連動しているという結果が示されました。これらの変化は複数のデータベースを用いたテストにおいても同様の相関性が確認されたため、今回検索した患者群だけの変化ではないことも筆者らは証明しています。
最後に、これが本論文のハイライトになりますが、5歳未満の乳幼児における独立した脳発達遺伝子データセットを用いて同様の解析を行った結果、興奮性ニューロンで観察された脳容積と細胞老化関連分子の相関性が発達初期の幼少期の脳においても全く同じように存在していることが明らかとなりました。私たちの脳は、発達期に不要な神経回路を剪定・整理して成長とともに脳構造を作り上げていくことが知られていますが、この時に発動する分子メカニズムが人生の後半においては加齢に伴う脳萎縮の進行プロセスとして機能しているという「発達」と「加齢」の分子機構における共通性が提示されました。
アルツハイマー病研究においても「ミクログリアの炎症」が大ヒットした時期がありましたが(10数年おきくらいにリバイバルしている気がします)、その「炎症」は果たして本当に病的なものなのかなと以前から疑問に思うことがありました。今回の論文は、普段私たちが「異常」「病的」と考えているものが、実は「正常」「生理的」な反応の見方が変わっただけなのかもしれないという重要な気付きをもたらしてくれる報告ではないかと感じました。
(文責:木村展之)
