Universal transcriptomic hallmarks of mammalian ageing and mortality.
Alexander Tyshkovskiy, et al.
Nature (2026), 654(8117); 173-188. DOI: 10.1038/s41586-026-10542-3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42203874/
マルチオミクスデータ解析の分野は、近年飛躍的に発展しており、これまでは不可能だったような解析も比較的簡単にできる時代になってきました。今回の海外文献紹介では、老化研究者としては必読と思われる論文を紹介させていただきます。
この論文では、マウス、ラット、カニクイザル、ヒトを用いた25以上の組織におけるRNA-seqデータを統合し、生物学的年齢や死亡リスクに関連する共通の転写ネットワーク(Universal transcriptomic clock)を特定しました。さらに、そのネットワークは介入によって若返らせることができることを示しました。主な結果を以下にまとめます。
①種を超えて老化に共通して変動する遺伝子およびパスウェイが存在する
解析した全ての種において、CDKN1A(p21)とLGALS3 (ガレクチン3)を含む数個の遺伝子が共通して加齢に伴い発現上昇していました。同様に共通して発現低下を示す遺伝子も同定されました。
また、共通して上昇するパスウェイは、炎症(IFN・TNFパスウェイを含む)、p53パスウェイなどでした。そして、共通して低下するパスウェイには、ミトコンドリア関連、脂質代謝関連、xenobiotic代謝、DNA修復などのパスウェイが含まれていました。
②老化に特徴的な遺伝子・パスウェイをモジュール化して示した
老化と死亡率に関連した遺伝子発現の変化を解析し、それらを調節する遺伝子群(パスウェイ)を28個のモジュール(module clocks)に分解できることを発見しました。そのモジュールには、炎症、ミトコンドリア、クロマチン修飾、翻訳、mTOR、脂質代謝などが含まれます。これにより「どの生物学的プロセスが老化しているか」を具体的に評価できます。
具体例として、カロリー制限では、ミトコンドリア、脂質代謝、ROS代謝などの代謝系モジュールが若返ることを示しました。一方で、LPS注射による炎症モデルでは、IFNなどの炎症関連モジュールが老化することを示しました。同様に、早老症モデルであるKlothoノックアウトマウスでは、炎症関連、mTOR、ミトコンドリア関連などのモジュールが老化方向にシフトしていることがわかりました。
③若返り操作は本当に若返る
若返り操作のひとつであるパラバイオーシス個体を用いた実験や初期胚を用いた実験では、実際に多くのモジュールが若返り方向へシフトしていました。また、パラバイオーシス個体とカロリー制限個体では、共通の遺伝子発現変化が見られることがわかりました。
この論文で示されているCDKN1AとLGALS3は、UKバイオバンクのコホートデータでも死亡率やmultimorbidityとの相関が確認されていることから、健康診断レベルで測れる老化のバイオマーカーとして有力なものになりそうです。なかなかヘビーな論文ですが、今後の老化研究においてテキストブック的な扱いを受ける論文だと思います。
(文責:赤木一考)
