Slowed epigenetic aging in Olympic champions compared to controls.
Zsolt Radák, et al.
Geroscience (2025), 47(2); 2555-2565. DOI: 10.1007/s11357-024-01440-5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39601999/
これまで多くの研究により、身体活動は老化を遅らせ、健康寿命の延伸に寄与することが報告されています。一方で、オリンピック選手のような極めて高いレベルの身体活動が、生物学的老化にどのような影響を及ぼすのかについては、十分に解明されていませんでした。近年、暦年齢とは異なる「生物学的年齢」の概念が注目されており、DNAメチル化情報に基づいて算出されるエピジェネティック・クロックは、生物学的老化を評価する有力な指標として広く用いられています。
今回紹介する論文では、ハンガリーのオリンピックチャンピオン(金メダリスト)を対象に、複数のエピジェネティック・クロックおよびDNAメチル化に基づくテロメア長推定を用いて、生物学的老化との関連を検討しました。解析の結果、オリンピックチャンピオンでは対照群と比較して複数のエピジェネティック・クロックの値が有意に低く、生物学的老化の進行が緩やかであることが示されました。また、DNAメチル化から推定されたテロメア長もオリンピックチャンピオン群で有意に長く、生物学的老化を反映する指標においても若々しい特徴が認められました。
さらに興味深いことに、男性では直近10年以内に金メダルを獲得した選手の方が、それ以前のメダリストよりも老化が遅い傾向を示した一方、女性では逆に、過去のメダリストの方が直近のメダリストよりも老化が遅い傾向が認められました。また、競技種目ごとの特徴に加え、特定の遺伝子において特徴的なDNAメチル化変化が認められました。
本研究は、青年期から成人期にかけて継続される長期間かつ高強度のトレーニングが、エピジェネティックな適応を介して生物学的老化を遅らせる可能性を示した重要な報告です。特に、極限レベルの運動負荷が必ずしも生体に負の影響を及ぼすのではなく、むしろエピゲノムの最適化を通じて、死亡リスクの低下や加齢関連疾患の予防に寄与する可能性を示している点は注目に値します。本論文は、スポーツ・運動科学と老化研究を結びつける興味深い知見を提供するものであり、今後は、競技特性やライフスタイル因子の違いを考慮したさらなる検証が進むことで、トップアスリートにみられるエピジェネティックな変化の意義や生物学的老化との関連がさらに明らかとなり、その知見を応用した抗老化介入の開発につながることが期待されます。
(文責:多田 敬典)
