Restoring circadian rhythms in the hypothalamic paraventricular nucleus reverses aging biomarkers and extends lifespan in male mice.
Haijiao Zhao, et al
Cell (2026), 189(7); 2007-2023, e20. DOI: 10.1016/j.cell.2026.01.016.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41785851/
今回私が紹介するのは、はるか昔から多くの人がそうなのではないかと感覚的にイメージできていた「概日リズムの乱れ=寿命短縮」の可能性について、分子機序・脳神経・内分泌レベルの科学的根拠を示した論文です。概日リズムの振幅が脳を介して寿命に影響を与えているかに踏み込んだ興味深い内容です。
論文概要を短くまとめると、『PVN(視床下部室傍核)の概日リズムの“振幅”の程度が老化の進行を左右し、これを強めると寿命が延びる。』ということになります。
マウスもヒトも老化するとHPA/HPT/HPG軸を統合する内分泌の司令塔であるPVNの概日振幅が低下します。PVNのCRHニューロンのリズムが弱くなると下垂体のACTHリズムも弱くなり、副腎のコルチコステロン分泌リズムが平坦化してしまいます。その結果、末梢時計の同期が乱れ、代謝異常、慢性炎症、DNA損傷の蓄積が誘導され、老化の進行が加速されます。
著者らは、アデノシンの誘導体でPVNニューロンのRUVBL2 を活性化する作用を持つ3’-deoxyadenosine (3dA) をマウスに腹腔内投与して概日振幅を強める実験を行いました。3dAを投与すると、IL-6などの炎症性サイトカインの低下、DNA損傷の蓄積の低下、老化細胞の減少、エピジェネティック年齢の若返り、筋力低下・代謝異常・認知機能低下が改善され、平均寿命が12%も延長しました。マウスは夜行性なので、活動期 (暗期) に入る直前に投与するのが最も効果的だったようです。3dAは振幅が上昇するタイミングで投与することが重要で、振幅が下がる時間帯に投与すると効果が弱くなることが示されています。これらの抗老化・寿命延長効果は、PVNでRuvbl2をノックアウトするとすべて消失しました。加えて、別の化学遺伝学的な手法でも活動期に入る直前(ZT10)にPVNニューロンを活性化させる実験を行ったところ、3dA投与実験と同様の抗老化・寿命延長効果が認められました。
この論文は、規則正しい生活が長寿の秘訣というボヤっとしたこれまでの私の概念をクリアにし、PVNという脳の一部位の概日振幅が全身の老化進行を決定づけるという興味深い知見を与えてくれました。
老化の中枢起点の一つがPVNだということが特定できたのは大きな進歩かと思います。また、抗老化や若返りの新たな標的として概日振幅が注目されるかもしれませんね。全身の末梢で進行する老化現象を脳の中枢である程度制御可能であることも興味深いです。
睡眠と食事のタイミングは重要ですね。我々科学者は不規則な生活になりがちな職業なので、平均寿命が短縮されないことを祈るばかりです。
お手隙の際に、是非ご一読ください。
(文責: 橋本理尋)
