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編集委員会からのお知らせ:2026年02月号海外文献紹介

Long-term histone lactylation connects metabolic and epigenetic rewiring in innate immune memory.

Athanasios Ziogas, et al.
Cell (2025), 188(11); 2992-3012. DOI: 10.1016/j.cell.2025.03.048.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40318634/

 

 訓練免疫(trained immunity)は、自然免疫細胞が一度受けた刺激に対して長期に反応しやすい状態を獲得し、次の刺激でサイトカイン応答が増幅する現象です。ワクチンが典型例です。
 訓練免疫の分子基盤としては、エピゲノムの書き換えがセットで研究されてきました。エピジェネティクス分野で最近注目されているのが「栄養への記憶」です。古典的にもアセチル化は重要なヒストン修飾とされてきましたが、栄養代謝の中心となるアセチルCoAが基質です。近年それ以外にも多くの食事由来の栄養成分がヒストン修飾を担うことが分かってきています。すなわち我々の老化・老化関連疾患分野で重要な役割を担う栄養代謝シグナルは、代謝中間体を通したエピジェネティック記憶として長期に働く、という仮説が成り立ちます。中でもヒストンリジンへの乳酸付加(ヒストンラクチル化, K-la)は注目され、2019年にその発見を報告したNature誌の論文はすでに3500回以上引用されています。乳酸は糖の解糖系における異化の最終産物であり、免疫、がん、スポーツなど多くの文脈での長期的変化の維持を説明し得る分子として注目されているのです。今回紹介する論文では、乳酸がワクチンBCGワクチンによる訓練免疫に重要な役割を果たすことを発見しました。
 本研究の核は以下のように整理できます。
① BCGで単球を“訓練”すると解糖系が回り、乳酸産生が上がる。
② 乳酸産生は、再刺激時のサイトカイン応答の強さと正に相関する。
③ 乳酸産生(解糖系のLDHによる産生)や、ヒストンへのラクチル化(H3K18-la)を担うp300を薬理学的に抑えると、訓練免疫(再刺激時の過剰応答)が弱まる。
 本論文で提示されるデータは、BCGによって誘導される解糖系亢進と乳酸産生が、p300活性に依存したH3K18ラクチル化と結びつき、二次刺激時のサイトカイン応答を強めるというモデルを支持します。p300は古くからヒストンアセチル化酵素として有名ですが、この論文では「ヒストンラクチル化酵素」としても働いていることが示されています。これらの内容を、主にヒト単球を用いた解析と、個体差を見る遺伝子多型解析から、実験室を超えて起こる確率が高いことを示しています。実際にヒトの体内でワクチン接種後 3ヶ月経過してもこのラクチル化が維持されていることを示しました。
 意義を一言でまとめると、これまで解糖系の最終産物としてみられがちだった乳酸が、“糖代謝の終点”というより自然免疫を長期的に調整する代謝産物として働き得る点です。
 本論文の限界として、訓練免疫は多因子的であり、ラクチル化で必要十分に説明できるのかは論文では解明されていません。ヒストンのK-la修飾部位と遺伝子発現の関係に関しても、転写の亢進と抑制の双方が起こり、細胞種、文脈でも相反する数多く報告がなされ、その原理はまだ見えてきていません。
(文責: 伊藤 孝)

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