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編集委員会からのお知らせ:2026年01月号海外文献紹介

Transient hepatic reconstitution of trophic factors enhances aged immunity.

Mirco J. Friedrich, et al.
Nature (2025), online ahead of print. DOI: 10.1038/s41586-023-06802-1.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41407851/

 

 生き物が老いるということに抗うことはできません。時代や技術の進歩により寿命は徐々に延びていますが、出来ることなら健康で不自由のない生活を送り生涯を全うしたいものでしょう。今回ご紹介するのは、加齢によって低下する免疫機能を回復させる新たな戦略として、肝臓を一時的に「免疫再生の場」として活用することで、より安全で効果的な治療を目指した革新的な方法を提案している論文です。
 加齢に伴いT細胞のレパートリーが変化し、感染症やがん、ワクチン効果の低下などが起こります。しかし、既存の免疫機能回復法は効果が限定的で副作用や臨床応用への難しさが存在します。本研究では若齢マウス(6週齢)と老齢マウス(72週齢)の中枢および末梢免疫ニッチのマルチオミクス解析(末梢血T細胞のscRNA-seq、TCR-seq、胸腺のSlide-TCR-seq)により加齢に伴い低下するT細胞の維持と機能に必要なトロフィックシグナルとしてNotch経路(DLL1;Delta-like ligand 1を後の実験に使用)、Fms様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3L)、インターロイキン7(IL-7)を同定しました。ヒトとマウスに共通して加齢では胸腺が委縮しT細胞の新生が困難になることや、肝臓は高齢でもタンパク質合成が比較的に保たれ免疫調節に適した臓器であることから、同定した3因子(DLL1、FLT3L、IL-7)をmRNAで肝細胞に発現させました。著者らは毒性リスクなどを考慮し、一過性で制御しやすいmRNAの利用を検討しました。用いた3因子(頭文字から)DFIのmRNAをSM-102脂質ナノ粒子に封入し、72週齢マウスに4週間の静脈投与により肝細胞表面(DLL1)または分泌タンパク質(FLT3L、IL-7)に特異的な発現かつ有害変化がないことを実証しました。
 このDFIの投与により、共通リンパ系前駆細胞が増加し新たな胸腺T細胞産生が促進されること、抗原提示に重要なconventional dendritic cell type1(cDC1)が脾臓で増加し抗原提示能が向上することなど、T細胞を増やすだけでなく免疫系全体の若返りを促進する包括的な効果があることを示しました。また、高齢者のワクチン効果が低下することを踏まえ、老齢マウスのワクチン接種前にDFIを28日間投与した実験では、オボアルブミン特異的CD8+T細胞数が増加し、抗原再刺激時にIL-2とIFNγの産生増加による若齢マウスと同等レベルの回復を確認しました。これは高齢でも適切な刺激により免疫応答を回復できる可能性を示しています。さらに、抗腫瘍免疫効果について、ワクチン接種前のDFI投与後に、腫瘍特異的CD8+T細胞の浸潤とクローン多様性が増加し、PD-L1阻害との併用で治療効果を増強するなど、高齢者におけるがん免疫療法の効果を高める可能性を示しました。この実験の最大の特徴は、効果が可逆的でDFIの投与期間に一時的に免疫機能を回復させる一方、自己免疫疾患を誘発しないという安全性の高い免疫調節戦略の可能性を示したことです。
 以上のように、肝臓を一時的に免疫因子の産生拠点とし、mRNAという一過性の効果的な免疫刺激を実現することで、移植等に比べ侵襲性の低い免疫若返り戦略の礎を示しました。まだ、慢性的な免疫因子曝露の影響についての検証やT細胞以外の免疫系に関する検討を必要としていますが、肝臓を介して治療タンパク質を一時的に発現・分泌させる手法は多様な疾患への応用が期待されます。mRNAパーティクルの静脈投与で疾患を治すという今回の報告ですが、ただでさえ病気になると心も体もつらい状況で、いつの日か子供も高齢者にも負担の少ない点滴のように治療する未来が訪れるかもしれません。
(文責:板倉陽子)

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