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編集委員会からのお知らせ:2025年7月号海外文献紹介

SIRT5 safeguards against primate skeletal muscle ageing via desuccinylation of TBK1.

Qian Zhao, et al.
Nature metabolism 7: 556-573. (2025), DOI: 10.1038/s42255-025-01235-8.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40087407/

 高齢者におけるサルコペニアや運動機能低下は生活の質を著しく損なう要因の一つですが、骨格筋老化の分子機構は未だ不明瞭でした。本論文は、霊長類(マカクザル)およびヒト幹細胞由来筋管細胞を用いた体系的解析により、SIRT5が筋肉老化の抑制に中心的な役割を担うことを明らかにしました。
 著者らはまず、若齢と老齢マカクザルの筋組織を比較し、筋線維の縮小、筋線維タイプの変化(速筋から遅筋への移行)、線維化、脂質蓄積、神経筋接合部の構造崩壊、筋衛星細胞の減少、核ラミナやヘテロクロマチンの崩壊など、複数の老化指標を同定しました。加えて、RNA-seqおよびプロテオーム解析によって、加齢に伴い代謝系遺伝子・タンパク質が低下し、炎症関連経路が亢進していることを見出しました。また、この骨格筋老化の分子的起点として、老齢マカクザルの筋組織でSIRT5が特異的に低下していました。CRISPR-Cas9SIRT5を欠損させたヒト筋管細胞では、SA-β-gal陽性細胞数、筋萎縮、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、炎症性サイトカインの発現が著しく上昇しました。
 次に、SIRT5が炎症キナーゼTBK1と直接結合し、TBK1137番リジンを脱スクシニル化することで、TBK1172番セリンのリン酸化(活性化)を抑制し、下流のNF-κB経路を抑えていることを明らかにしました。この修飾の相互作用は、3次元構造解析により空間的にも裏付けています。TBK1-K137R変異ヒト筋管細胞を用いた実験では、スクシニル化・リン酸化ともに起きず、炎症性表現型や老化が軽減しました。さらに、SIRT5欠損筋管細胞において、TBK1–RelA軸が活性化して炎症・老化を促進していることが示され、siRNAによるTBK1またはRelAの抑制により、老化表現型が改善しました。
 注目すべきことに、高齢マウスに対してレンチウイルスベクターの筋注によるSIRT5遺伝子導入を行ったところ、筋力・持久力の改善、筋萎縮や炎症の軽減、遺伝子発現パターンの若齢化など、顕著な回復効果が得られました。この結果は、SIRT5が加齢性筋肉変性に対して治療標的となり得ることを示唆しています。
 本研究は、骨格筋老化の分子メカニズムを霊長類モデルで体系的に解明し、SIRT5によるTBK1のスクシニル化制御を介した炎症抑制が、筋機能維持に不可欠であることを示しました。加えて、遺伝子治療による筋機能回復の実証は、将来的なサルコペニア治療や抗加齢医療の新展開につながる可能性を秘めています。他のサーチュインや筋タイプ(心筋・平滑筋)への波及も含めて、今後の研究が待たれます。(文責:澁谷 修一)

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